若い頃はデートでドライブに出かける事が多くて、行き先を決めずに行き当たりばったりで車を走らせることもありました。地元が神戸なので、港の方へ出かけては2人で海を眺めながら、なんでもない話を永遠としていても、飽きないほどでした。

少し足をの出して大阪の方へ行ってみたり、夜中にドライブしながら街の夜景や繁華街を歩く人を観察しながら、「あの人はこれから家にかえるのかな」「あの家族は深夜なのに小さい子供を連れている」なんて、言いたい放題好き勝手な話題で盛り上がっていました。

夜に車を走らせていく定番の場所は決まってドン・キホーテで、色々な商品をみながら大型家電量販店で買うより安いのに驚いたり、部屋着や日用品を揃えたり、面白パーティーグッズを試してみたりして、夜中の眠れない2人にはいい時間つぶしになっていました。

そんなドライブを良くする2人なのですが、運転するのは決まって彼の方だけ。私はというと、免許も持っていないので助手席が定位置になっていました。私が疲れた時などに運転を変わってあげたりできるので、運転免許を取りたいと言い出しても、彼は自分以外がハンドルを握る事を嫌うほど、車の運転が好きな人だったのです。

そんな彼はちょっと危険な走りが好きなドリフトファンの彼でした。ドリフトとは、故意に車を横滑りさせたりして楽しむ車のスポーツとでもいう物でしょうか。時にはサーキットへ連れて行かれることもありました。

私は彼と出会って初めてそんな世界がある事を知る事になったのですが、隣に私が乗っている時でも気にせずドリフト走行をしてしまうのです。サーキットについて行って、毎回一緒に乗せられてしまうのです。断り切れないのは私の性格なのですが、彼は私に自慢のドライビングを披露出来るのが楽しいようで、私も吐き気をこらえながらも、そんな彼の横顔を見る事が好きでした。

そんな彼の車なので、乗り心地はお世辞にもいいとは言えず、振動はお尻が痛くなるほど体に伝わってくるし、何だかわからないバーが車内に張り巡らされていました。運転席のシートはバケットシートと言われるホールド性に優れた物で、常に燃費を気にしていたので、エアコンを掛ける事は少なかったです。

車の走行音は、私の家の近所を走ってほしくないほどの騒音で、これでは街中では走れないなと密かに思っていました。そんな車でサーキットへ出かけるので、横に座らされる私は内心冷や汗が止まらず、いつ気絶してしまうかとヒヤヒヤしていました。

しかし、彼と過ごす時間の中で私の中にも少しづつ車の知識が入ってきたのも事実で、少しづつ彼の趣味に共感している自分がいました。いつしか、彼と一緒に車の話が出来るまでに私自身も成長していたのです。そんなことをふと感じ、一人で笑ってしまっていました。

そんな彼も、結婚した今となっては落ち着いてくれて、昔よりはサーキットへ行くことも少なくなりました。家庭を持って、日常的に使いやすい車に乗り換えましたが、家の駐車場にはあの頃を匂わせる車が1台綺麗なままで維持されています。

今でも週末には洗車をしたり、色々メンテナンスをしています。彼にとっては今でも数少ない趣味の一つなのですが、いつのまにか、私にとってもいい思い出になっていました。またあの助手席に乗るのは勘弁してほしいですが、あの時と変わらず車をいじっている楽しそうな彼の横顔を見つめる事が私は今でも楽しくてしかたがありません。